「また誰か辞めた…でも会社は新しい人を雇おうとしない」
「残業が増える一方なのに、採用活動すら始まらない」こんな不満は多いですよね。
そうなんです、こんな状況に悩まされている方は少なくないでしょう。明らかに人手が足りないのに、なぜ企業は新たな人材を雇おうとしないのでしょうか。
実は「人手不足なのに雇わない」背景には、経営者の合理的な判断と心理的な障壁、そして構造的な問題が複雑に絡み合っています。
本記事では、企業側の本音を深掘りしながら、現場で働く従業員が取るべき具体的な行動までを徹底解説します。
前の会社で一番つらかったのは、誰かが辞めても誰も補充されず、そのぶんの仕事が静かに自分たちにのしかかってくることでした。
同僚が「また一人辞めたらしい」とつぶやいても、会社のトップはまるで他人事のようで、募集をかける様子すらない。
次第に小さなミスが増え、職場の空気にイライラが滲み出すようになっていったんです。
ある日の飲み会で先輩が言った言葉が、今でも印象に残っています。
「人を増やすと固定費が上がるから、経営的には簡単には決断できないらしいよ」
たしかに合理的。でも、現場の負荷が積もってまた人が辞めるなら、それって本末転倒ですよね。
私は業務の見直しを上司に提案して、「やらない仕事」を決めていきました。
全部を完璧にこなすのは無理でも、取捨選択をすることで少しだけ空気が軽くなった気がします。
「人を増やすかどうか」は会社の決定。でも「どうやって今を乗り切るか」は、現場から動けるのかもしれません。が、しかし簡単ではありませんね。

人手不足なのに雇わない:その実態とは
人手不足倒産が過去最多を記録
2024年、日本国内で「人手不足倒産」が過去最多を記録しました。帝国データバンクの調査によると、2024年度上半期(4-9月)の人手不足倒産は163件に達し、前年同期比で約20.7%増加しています※1。
※1 出典:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)」2024年10月4日
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20241004hitode/
人手が足りないなら人を雇えばいいはずですが、現実はそう単純ではありません。むしろ「人を雇えないから倒産する」という事態が全国で起きているのです。
特に深刻なのは以下の業種です:
- 建設業:現場作業員の高齢化と若手不足
- 運輸業:ドライバー不足による配送遅延
- 介護・医療:離職率の高さと人材確保難
- 飲食・サービス業:長時間労働による採用難
有効求人倍率を見ても、建設業は4.77倍、サービス業は2.81倍と、圧倒的に求人が応募を上回っています。つまり「働きたい人」よりも「働いてほしい人」の方が圧倒的に多い状況なのです。
「雇わない」と「雇えない」の違い
ここで重要なのは、企業の状況を「雇わない」と「雇えない」に分けて理解することです。
「雇わない」企業の特徴
- 人件費を抑えたいという経営判断
- 既存社員で何とか回そうとする
- 採用活動自体を積極的に行っていない
- 「今は採用の時期ではない」と判断している
「雇えない」企業の特徴
- 求人を出しても応募がない
- 面接まで進んでも条件が合わない
- 採用してもすぐに辞めてしまう
- 教育する余裕がなく受け入れ態勢が整わない
多くの場合、この2つが複合的に絡み合っています。「本当は雇いたいけど、リスクを考えると踏み切れない」という企業が大半なのです。
あなたの職場はどちらに近いでしょうか。それを見極めることが、適切な対応を考える第一歩になります。
企業が人を雇わない5つの理由
①人件費の固定化リスクを恐れている
企業が採用をためらう最大の理由は、人件費が「固定費」になることへの恐怖です。
従業員を1人雇うと、以下のコストが継続的に発生します:
| コスト項目 | 月額目安(給与25万円の場合) |
|---|---|
| 基本給 | 25万円 |
| 社会保険料(企業負担分) | 約3.5万円 |
| 福利厚生・通勤手当 | 1〜2万円 |
| 月額合計 | 約30万円 |
| 年間コスト | 約360万円 |
これに加えて、採用活動にかかる求人広告費(数十万円)、入社後の教育コスト、退職時の引き継ぎコストなども発生します。
特に中小企業の経営者にとって、年間360万円×人数分の固定費増加は、売上が不安定な時期には大きなリスクです。「もし業績が悪化したら?」「この人件費を回収できなかったら?」という不安が、採用の決断を鈍らせています。
②過去の採用失敗がトラウマになっている
意外と語られないのが、経営者の「採用トラウマ」です。
過去に以下のような経験をした企業ほど、採用に慎重になる傾向があります:
- せっかく採用したのに1ヶ月で辞められた
- 期待していた即戦力が全く機能しなかった
- 人間関係のトラブルを起こして職場の雰囲気が悪化した
- 教育に時間をかけたのに競合他社に転職された
このような失敗体験があると、「また同じことが起きるのでは?」という恐怖心が芽生え、採用活動そのものに消極的になります。
特に10人以下の小規模企業では、1人の採用ミスが組織全体に与える影響が大きいため、この傾向が顕著です。
③即戦力以外は採用したくない
「経験者募集」「即戦力歓迎」という求人をよく目にしますが、これが落とし穴になっています。
現場が忙しければ忙しいほど、「すぐに活躍できる人」を求めてしまいます。しかし、そんな都合の良い人材はそう簡単には現れません。
結果として:
- 採用基準が厳しくなりすぎる
- 誰を面接しても「即戦力ではない」と判断してしまう
- 育成前提での採用という選択肢が消える
- 結局誰も採用できないまま時間が過ぎる
という悪循環に陥ります。「理想の人材が来るまで待つ」という姿勢が、結果的に人手不足を長引かせているのです。
④新人を教育する余裕がない
「人が足りないから採用する」はずなのに、「人が足りないから教育できない」という矛盾が生じています。
現場が逼迫している状況では:
- 既存社員が自分の業務で手一杯
- 新人に付きっきりで教える時間がない
- マニュアルも整備されていない
- OJT担当者を決められない
新人が入ってきても放置状態になり、わからないことを聞ける雰囲気もなく、結果として早期退職につながります。
「せっかく採用してもどうせ辞める」→「だから採用しない」→「ますます人手不足」という負のスパイラルが生まれるのです。
⑤「なんとか回っている」という錯覚
最も危険なのは、経営層の「現場はなんとか回っている」という錯覚です。
現場では以下のような状況が起きていても:
- 毎日残業2〜3時間が常態化
- 有給休暇がほとんど取れない
- ミスやクレームが増えている
- 社員が疲弊して表情が暗い
経営者の目には「業務は遅延していない」「お客様からの大きなクレームもない」と映ってしまいます。
現場の悲鳴が経営層に届かないまま、「今の体制で問題ない」という判断が続き、採用活動が後回しにされ続けるのです。
人手不足を放置すると起きる5つの悪循環
①既存社員の負担が限界を超える
人手不足が続くと、最初に犠牲になるのは既存社員の心身です。
負担増加の実態
- 1人あたりの業務量が1.5倍〜2倍に
- 月の残業時間が60時間を超える
- 休日出勤が当たり前になる
- プライベートの時間が消失する
厚生労働省の基準では、月80時間以上の残業は「過労死ライン」とされています。人手不足の職場では、この水準を超える長時間労働が常態化しているケースが珍しくありません。
疲弊した社員は、集中力が低下しミスが増えます。するとそのフォローでさらに時間を取られ、悪循環に陥ります。
②サービス品質が低下し顧客が離れる
従業員の余裕がなくなると、必然的にサービスの質が低下します。
具体的な影響
- 問い合わせへの返信が遅れる
- 納期が守れなくなる
- 細かいミスが増える
- 丁寧な対応ができなくなる
- クレーム対応が雑になる
最初は小さなほころびでも、それが積み重なると顧客の信頼を失います。特に競合他社が充実した体制で対応している場合、顧客は迷わずそちらに流れていきます。
人手不足によるサービス低下は、将来の売上減少に直結する深刻な経営リスクなのです。
③優秀な人材から辞めていく
人手不足の職場で最も避けたい事態が、「優秀な社員から辞める」という現象です。
なぜ優秀な人ほど先に辞めるのか:
- 能力が高い人ほど仕事が集中する
- 責任感が強い人ほど無理をしてしまう
- 転職市場での価値が高く他社からオファーが来る
- 「この会社に将来はない」と早めに見切る
優秀な社員が抜けると、残された社員の負担はさらに増加します。するとまた次の人が辞め、やがて「辞めたもん勝ち」という空気が社内に蔓延します。
この連鎖が始まると、止めるのは非常に困難です。
④採用力がさらに低下する
人手不足と離職の悪循環は、企業の「採用力」自体を奪っていきます。
採用力低下のメカニズム
- 労働環境が悪いという評判が広まる
- 口コミサイトに低評価が書かれる
- 求人を出しても応募が来なくなる
- 面接に進んでも辞退される
- ますます人材確保が困難に
今の時代、企業の評判は簡単に調べられます。転職会議やOpenWorkといった口コミサイトで「残業が多い」「人が次々辞める」と書かれれば、求職者は敬遠します。
人手不足は、未来の人材確保まで困難にする負の資産なのです。
⑤最終的に事業継続が困難になる
人手不足を放置し続けた先に待っているのは、事業の継続困難という最悪のシナリオです。
人手不足倒産のパターン
- 受注はあるが人手不足で対応できず売上が作れない
- 社長自らが現場に出続け経営判断ができない
- 事業継承する後継者がいない
- 新規事業に手をつけられず競争力を失う
2024年、こうした理由での倒産が急増しています。特に地方の中小企業や、建設・運輸などの労働集約型産業で深刻です。
「なんとか回っている」と感じている今が、実は最も危険な時期かもしれません。
【企業向け】人手不足を解消する3つの方法
採用のハードルを下げ育成前提で迎え入れる
人手不足解消の第一歩は、「即戦力神話」を捨てることです。
実践すべきアプローチ
| 従来の採用 | 育成前提の採用 |
|---|---|
| 経験者のみ | 未経験者も歓迎 |
| スキル重視 | 人柄・意欲重視 |
| 即戦力期待 | 3ヶ月〜半年で育成 |
| 採用基準が厳しい | 基本的な適性で判断 |
未経験者を採用する場合は:
- 研修期間を明確に設定する(例:最初の3ヶ月は教育期間)
- マニュアルや教育プログラムを整備する
- OJT担当者の業務量を調整して時間を確保する
- 小さな成功体験を積ませてモチベーションを維持する
育成には時間とコストがかかりますが、長期的には即戦力を待ち続けるよりも確実です。
業務の棚卸しと効率化で負担を軽減する
人を増やす前に、今の業務を見直すことも重要です。
業務改善の3ステップ
ステップ1:業務の可視化
- 各社員が何にどれだけ時間を使っているか記録する
- 本当に必要な業務とそうでない業務を分ける
- 誰でもできる作業と専門性が必要な作業を区別する
ステップ2:不要な業務の削減
- 昔からの慣習で続いているだけの業務を廃止
- 重複している作業を統合
- 会議や報告の頻度・時間を見直す
ステップ3:効率化ツールの導入
- クラウド型の業務管理ツール
- RPAによる定型作業の自動化
- チャットツールでの迅速な情報共有
業務の棚卸しを行うと、実は20〜30%の作業が「なくても困らない」ものだったと気づくケースが多いのです。
働きやすい環境づくりで定着率を上げる
採用した人材を定着させることは、新規採用と同じくらい重要です。
定着率を上げる施策
①柔軟な働き方の導入
- リモートワーク・テレワークの選択肢
- フレックスタイム制の導入
- 時短勤務の許可
- 副業の容認
②評価制度の透明化
- 明確な評価基準の設定
- 定期的なフィードバック面談
- 頑張りが正当に評価される仕組み
- 昇給・昇格の道筋を明示
③コミュニケーションの活性化
- 上司との1on1ミーティング
- 悩みを相談しやすい雰囲気づくり
- 社内イベントや交流の機会
- 心理的安全性の確保
「この会社で働き続けたい」と思える環境を整えることが、長期的な人手不足解消の鍵です。
【従業員向け】人手不足の職場で取るべき3つの行動
業務負担を数値化して経営層に伝える
現場の大変さは、感覚だけでは伝わりません。経営層に届けるには「数字」が必要です。
効果的な伝え方の例
感情的に「忙しい!」と訴えるのではなく、冷静にデータを示すことで、経営層も動きやすくなります。
【改善提案書のサンプル】
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| ■現状の業務負担 | ・1日あたり平均残業3時間 ・月60時間(過労死ライン直前) ・有給取得率15%(業界平均50%) ・退職者2名(直近3ヶ月) |
| ■想定される影響 | ・顧客満足度低下(サービス品質の低下) ・さらなる退職リスク ・採用コスト増(1人あたり100万円) |
| ■改善案 | ・短期:業務の優先順位見直し ・中期:1〜2名の増員 ・長期:業務フロー全体の改善 |
自分のキャリアを守るための線引きをする
会社が変わらない場合、自分を守るのは自分しかいません。
今日からできる自己防衛策
①労働時間の記録をつける
- 毎日の出退勤時間を記録
- 残業代の未払いがないか確認
- 過労死ラインを超えていないかチェック
②断る勇気を持つ
- 明らかにキャパシティを超える仕事は断る
- 「できない」と正直に伝える
- 優先順位を上司と相談する
③心身の健康を最優先にする
- 睡眠時間を確保する
- 休日はしっかり休む
- 体調不良の兆候を見逃さない
- 必要なら診断書をもらって休職も検討
「会社のため」と自分を犠牲にし続けても、会社はあなたの人生の責任を取ってくれません。自分の健康とキャリアを最優先に考えましょう。
転職も視野に入れた情報収集を始める
今の職場で状況が改善される見込みが薄い場合、転職を検討することも現実的な選択肢です。
転職を考えるべきサイン
- 月の残業時間が60時間を超えている
- 1年以上改善の兆しがない
- 経営層が現場の声を聞かない
- 次々と人が辞めている
- 自分の成長が止まっている
転職活動の進め方
- 転職サイトに登録して求人情報を見る
- 転職エージェントに相談する
- 自分の市場価値を確認する
- 在職中に情報収集を進める
- 良い求人があれば応募する
重要なのは「辞める」と決断する前に、「どんな選択肢があるのか」を知っておくことです。情報を持っているだけで、心に余裕が生まれます。
まとめ:人手不足は企業と従業員が共に向き合う課題
「人手不足なのに雇わない」という問題は、企業側にも従業員側にも言い分があります。
企業側の視点
- 人件費の固定化リスク
- 採用・育成コストの負担
- 過去の失敗経験からの慎重姿勢
従業員側の視点
- 日々の業務負担の限界
- 長時間労働による疲弊
- 将来への不安
しかし、人手不足を放置し続ければ、既存社員の離職、サービス品質の低下、最終的には事業継続の困難という最悪のシナリオが待っています。
企業は「人材は投資」という視点で採用・育成に取り組み、従業員は自分のキャリアと健康を守りながら、できる範囲で現場の声を届ける。双方が歩み寄ることで初めて、この問題は解決に向かいます。
もしあなたが今、人手不足の職場で限界を感じているなら、まずは自分の状況を客観的に把握することから始めてみてください。数字で記録し、冷静に判断し、必要なら外部の力を借りる。
人手不足の問題に、一人で抱え込んで耐え続ける必要はありません。











